二日めのカレーライス17
柚子が十四歳の時、母由布子と父良介は離婚した。表向きは円満な離婚であったが、人様の家庭の事情など外からはわからないものである。
一般的な離婚の原因として、夫の浮気、妻の浮気、借金や最近ではDVも散々取り上げられているが、この夫婦間の問題は複雑であった。
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柚子が十二歳の誕生日を迎えたその夜、超えてはいけない一線を良介と柚子は超えてしまったのである。いや、決して足を踏み入れてはいけない関係にハッキリとした違和感や強い罪悪感を感じないまま柚子は良介に導かれるようにその世界に入っていた。
十二歳の柚子には淫犯の意識すら感じない、むしろもともと父親のことが大好きであった柚子にとって良介の愛情を独り占めできるひと時であったのだ。
その日を境に良介と柚子の関係は父と娘から男と女の関係に変わった。
週に一、二度、夜中の三時になると柚子のベッドに良介が入ってくる生活が一年続いた。
ある夜、トイレにでも行くのかと気にも留めなかった由布子であったが、その夜は寝つきが悪く良介が戻ってこないことを心配に思いトイレを見に行った由布子は、そこで目を疑う光景に愕然とした。
どうやって寝室に戻ったのかもわからないまま由布子は良介の隣に背を向けるように横たわった。
家族の関係が一瞬にして崩れ去った夜であった。
由布子が問いたださなかったことで良介と柚子の関係はその後も続くことになったのだが、柚子が十三歳の春、由布子は家を出た。
学校から帰ると良介が柚子に言った。
「お母さんと別れることになった!」
「これからは君と二人だよ」
柚子は不思議なくらい何の感情も湧いてこなかった。
別れた理由を良介に聞こうとも思わなかったし、母由布子に会いたいという感情も生まれなかった。
すべての始まりであったあの夜に感じた、“お父さんを独り占めできる”という思いがこの時、うっすらと消えていくのを柚子は心の中で感じていた。
良介が近所のすし屋に出前を注文し終わったその時、柚子のスマホが鳴った。
「本田先生!休暇中のところ申し訳ありませんが、緊急のオペをお願いできませんか?」
脳外のオペナース 多嶋絵美からであった。
「容体は?」
「十二歳の男の子で、バスケットボ―ルの試合中転倒して左側頭部を強打したようなんですが、様子がおかしいということで今こちらに・・・」
「意識障害は?」
「みられます!」
「急性硬膜下血腫の可能性があるわね!」
「今CTの準備をしています!」
「一時間で戻るわ!」
「お願いします。」
柚子は急いで病院に戻る準備をした。(つづく)