二日めのカレーライス22
高野と柚子はタクシーに乗り込んだ。
柚子が運転手に行き先を告げた。
「運転手さん!京橋駅までお願いします。」
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二人の乗ったタクシーは国道1号線とJR環状線の高架が交わったところで止まった。
そこから北東に伸びる商店街に向かって柚子は歩き出した。
高野は柚子の後を歩きながら考えていた。このあたりは京橋ではあるがいわゆる繁華街からは少し外れた場所である。最近若者やサラリーマンに知られるようになってきた「裏京橋」といわれる場所も繁華街からは外れているが、この商店街は地元の人たちの生活の場といったところのようみ見えた。
柚子からは一度もこの場所のことを聞いたことがなかったため柚子が通いなれたように歩く姿に驚いていたのである。
商店街ももう終わりにさしかかったところで柚子が立ち止まった。
「じゅんちゃん、ここよ!」
そこは、『ゆう』という喫茶店であった。
「柚子が俺と行きたかったところって、ここなのか?」
柚子は何も言わず扉を開けて入っていった。
カウンターに椅子が8席のこじんまりとした清潔感のある店内であった。コーヒーの香りとたまに鼻腔を刺激するカレーの匂いとが交互に入ってきた。高野はこの喫茶店がカレーを売りにしているのだろうと推測した。
「いらっしゃいませ!」
カウンター内で洗い物をしながらオーナーらしき女性が出迎えた。
午後の二時をまわった頃で客は一人だけであった。
柚子は奥の席に座った。
「柚子がこんな場所の喫茶店を知っているなんて意外だな!」
「じゅんちゃんお昼まだだったよね!」
「うん、朝から何も食べてないから腹ペコだよ!」
「カレーライスでいい?」
「といってもカレーライスしかないんだけどね」
「ここに入った時からカレーライス食べようって決めてたから!」
「お母さん、カレーライス二つ!」
「お母さん?」
「お母さんって・・・」
「柚子のお母さん?」
「そうよ!」
「柚子が子供の頃に離婚した・・」
高野はカウンター内の女性と目があって急に気まずくなった。
「子供をおいて出てった悪いお母さんです!」
そんな風に返されて余計に気まずくなった高野だった。
「失礼な事言ってすみません。」
「いいえ、そのとおりですから!」
「柚子の母の由布子です」
「お母さまもお名前が“ゆうこ”なんですね」
「この子が生まれたとき、自分と同じ名前をつけようと決めていたの!」
「お店の名前、“ゆう”って、“ゆうこ”のゆうなんですね!」
「はい!」
「おまちどうさまでした、カレーライスです!」
大昔から、喫茶店のカレーライスは旨いと相場は決まっている。出てきたカレーライスは特別豪華なカレーライスではなかったが、一口食べただけで喫茶店のカレーライスが旨いことを証明した。
「このカレーライス、ほんと旨いですね!」
「子供の頃に母親が作ってくれたカレーライスの味を思い出します。」
「カレー店で修業したわけでもなく、出してるカレーライスは柚子が子供のころから作っていたカレーライスなんですよ!」
「子供の頃ね、カレーのいい匂いがして今晩カレーなの?って聞くと、“もう少し我慢して!明日にはもっとおいしくなるから”って」
「今でもこのお店で出すカレーライスは一日寝かせたものなんです」(つづく)