DonAltobelloのブログ

アルトベッロのもの書き人生

『Taboos』(4)

 

 

 いよいよビギナーズラックも終わって客足が途絶え始めたかと気遣わしげにはじめちゃんの顔を覗き込むと・・・笑っているのである。

笑いと言っても実に色んな笑い方があるものだ。愛想笑いに苦笑い、大笑いにせせら笑い、照れ笑い等々。はじめちゃんの笑いは私には思い出し笑いに見えたのである。

 

「なんかいいことあった?」

「そんな風に見えました?」

「すごい美人のお客さんが来たとか?」

「えっ、なんでわかったんですか?」

「わかりやすい性格やから!はじめちゃんは!」

「初めて来ていただいたお客さんなんですけどね、ここのヘレカツ定食が美味しいって聞いたからってわざわざ・・」

 

 

「食べログに掲載してるの?それとも常連さんの口コミかな」

「どうでしょうね?」

「でもとにかく美人で、OLって感じじゃなく、セレブの奥さんって感じでもなく…ただね、店に入ってから出ていくまで一度もスマホを見られなかったのが印象に残ってます。」

「へええ、それは今どき珍しいね!電車で本を読んでる人くらい珍しいね!」

「お待たせしました、ヘレカツ定食です!」

「ありがとう。」

 

十五分そこそこでヘレカツ定食を平らげトン一郎を出た。腹が減っていたのは間違いなかったが外に出たのにはもう一つ目的があった。

私の執筆スタイルは万年筆での手書きである。最近の作家さんたちはパソコンで書き上げていくのが当たり前になっているが私はパソコンは使わない。ITに疎いわけでもパソコンアレルギーでもない。頭の中に浮かぶ文章がゴシック体ではなく、私の万年筆の字体なのである。頭の中の文書を原稿用紙に清書するというのが私のスタイルなのである。そのいつも使っている万年筆を落としてしまい、ペン先が微妙に変形してしまって書き心地が悪くなったのである。なので行きつけの小田万年筆に修理してもらうのである。モンブランやパーカー、万年筆の有名メーカーは数あるが私が使っているのは大西製作所の万年筆である。実に素晴らしい書き心地で、書くのが楽しくなるような万年筆なのである。

 万年筆の修理を終え、夕方前に書斎に戻ってきた。スマホを持って出るのを忘れていたことに気付き、開いてみると1件の着信が入っていた。それは柚子からであった。あいにく私は留守番電話サービスを利用していないので要件はわからない。

 

(コール♪)

                 ・・・出ない。

「夜にでも掛けなおしてみるか」

 


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復活した万年筆の書き心地を確かめながら一気に書き進めていく。時計を見ると午後九時を少し回っていた。コーヒーでも入れようと小さなキッチンで湯を沸かそうとした時、スマホが鳴った。

高野コンストラクション秘書室長三木達彦からであった。

つづく