二日めのカレーライス21
(回想)
「じゅんちゃん、今更なんだけどね、じゅんちゃんの書いた本『さよならは雨の日を待って』を読んだのね!」
「えっ、まだ読んでなかったの!」
「意地悪!」
「冗談、ありがとう。」
「で、どうだった? 読み終えた感想?」
「すごく感動しちゃった!」
「彼女、映子がね、知之と別れなければならない本当の理由がわかったときの知之の心情がとても繊細に、そして愛情が深いが故の複雑な葛藤をリアルに想像できたわ!」
「リアルに?」
「映子が私で、知之がじゅんちゃんだと想定して読んだからってこと」
「なるほど!」
「彼女、愛されていたのね!どんな過去があったとしても・・・」
「恋愛小説は読者が登場人物と自分をだぶらせて読み進めていくからこそ、共感する部分やそうだったらいいなっていう思いを抱きながら現実と妄想の世界を行ったり来たりできる小説なんだ」
「ストーリーは別にして、人が人を愛することは呼吸をすることと同じくらい当たり前のことだと思うんだ!」
「でも、どこの空気でも同じってわけじゃなく、人と人は出会うべくして出会う、俺にとって柚子は柚子じゃなければならない運命的な理由があったんだと思ってる!」
「じゅんちゃんは・・・」
「じゅんちゃんは・・こんな私でもいいの?」
「“こんな”って何だよ!」
柚子は父良介との関係を高野に話すべきかどうかずっと悩んでいた。
医師という仕事に就いてからはしだいに良介との関係も薄れていったが、関係の長い短いではなく、その事実が高野への罪悪感として大きく立ちはだかってもいた。
高野の柚子への愛が日増しに強くなっていることに幸せを感じている自分と、“私はじゅんちゃんを裏切っている”という自責の念に苦しむ自分とが高野の前で現れては消えていくのであった。
「じゅんちゃん、ありがとう」
柚子は話を変えることにした。
「次の作品は順調?」
「それがまったく進んでないんだ」
「書きたくなるまで少しゆっくりしたら!」
「じゃあ・・・今日はお休みにして、どこか行こうか!」
「私、じゅんちゃんと行きたいところがあるの!」(つづく)