DonAltobelloのブログ

アルトベッロのもの書き人生

二日めのカレーライス20

作家「鷹野リョースケ」の作家としての経歴は、高野が二十九歳の時に「さよならは雨の日を待って」を出版し、初作としては異例ともいえる七万部のベストセラーを記録し一躍有名作家となったのだが、第二作目、第三作目はまあま売れたという程度であった。

販売部数と作家としての能力は比例するというのが高野の自論なのだが“まあまあ”が続くと些かペンが進まなくなる。そんなこともあり第四作目を発表するまでに結局四年を費やすことになった。

 

第一作目のインパクトが強すぎたのか、恋愛小説家のイメージが定着してしまったことで高野自身恋愛小説の枠を超えることができずにいた。

本来、ラブストーリーは様々なジャンル、例えば純文学やミステリー、ライトノベルなどの作品の中に一要素として組み込まれることが多く、それ単体で一冊を書き上げるのには相当の恋愛経験や想像力を必要とする。一旦スランプに陥ると、抜け出すためのアイデアや経験値を上げなければならない。

しかし、恋愛の経験値などそう蓄積できるものではない。ましてやその時すでに柚子と付き合い始めていた高野に、仕事のためとはいえ別の女性と恋愛するという発想はまったくもって生まれてこなかった。むしろ、このスランプの間柚子は高野にありったけの愛を注いでくれたし、高野もまた柚子を心から信頼し愛していたのである。今もその気持ちに変わりはない。

子供の頃から妄想することが好きだった高野であるが、柚子を愛し始めてからは「ラブストーリー」というジャンルの妄想がすっかりできなくなっていた。

 

そんな時、高野はふらっと立ち寄った古本屋である本に目が止まった。

社会人類学者クロード・レヴィストロースが書いた『野生の思考』である。

以前何かの書籍でこのレヴィストロースが解明したとされる「近親婚の禁止」について読んだことがあり「レヴィストロース」という名前を憶えていたためである。

高野は次作のヒントになるのではないかという漠然とした思いから、当時の編集者にレヴィストロースが書いた本を全部集めてくれるよう依頼した。

すべての書籍を読み終えたとき、高野は漠然とした思いが明確なアイデアに変わるのを感じた。

「よし!次はこれでいこう!」

何も書けなかった原稿用紙を相手に、高野は四年ぶりにペンが止まらなくなった。

 

鷹野リョースケの第四作目『インセスト・タブー』は十万部を超える大ベストセラーとなった。(つづく)