二日めのカレーライス14
本田柚子は大阪医科大学総合医療センターに勤務する脳神経外科の医師である。
生まれは大阪であるが市内ではなく、北部の自然の豊かな田舎町で育った。のびのび育てられたせいなのかそれとも遺伝なのかはわからないが、女性にしては背が高く、よくバレーボールの選手に間違われるほどの体格である。仕事柄、というより洗うのが面倒なこともあり今はショートカットにしている。
今、森尾教授から打診されているのが脳神経外科領域における治療や研修の標準化と改良・普及に携わる仕事なのである。しばらく現場を離れることになることについては自分自身納得済みである。
現在全国で日本脳神経外科学会会員は8000名、そのうち女性医師は約4%である。専門医になるためには最短で卒後6年というわけだが、海外留学や大学院入学などもあり相応の努力が必要である。
治療対象が確実に増えてきている中、専門医の数が少ないことも事実である。
脳神経外科医としては充実した日々を送る柚子ではあったが、高野との関係性は十年目を迎えた今も大きくは進展していなかった。このままどっちつかずの状態をこれから先も続けていくのかそれとも・・・
柚子は迷っていた。高野との関係を、そしてもう一つの関係も・・・
「ただいま!」
高野は山野辺の実家のドアを勢いよく開けた。
「こうママ!腹減ったぁ!」
中学時代からこの第一声は変わっていない。
「じゅんちゃん? おかえり! 今日はあなたの大好物の豚肉のハンバーグ、たくさん作っておいたわよ!」
豚肉のハンバーグは高野と山野辺が学生時代に、食べ盛りの二人に美味しいものをたくさん食べさせようと山野辺の母親が考え出したオリジナルメニューである。牛肉ではなく豚肉を使うというところが味噌である。ソースが少し甘めで隠し味にマスタードが入っている。
「それそれ! それが食べたくなるんだよなあ」
「浩太は? たまには帰ってくるの?」
「もう半年も電話一本よこしてこないわよ!じゅんちゃんからも言ってやってよ」
「そういえばバスケットボール部に入ったんだって? りく!」
「プロの選手にでもする気かしらねぇ? 俺に似て素質があるとかなんとかで」
「準一朗かっ?おかえり!」
二階から山野辺の父親が下りてきた。
「ただいま! こうパパ!」「足の具合はどう?」
太一は一週間前に階段の一番下の段を踏み外して右足をねん挫したのである。ねん挫自体は大したことはなかったのだが、踏み外した際に壁にかかっていた絵を掴んだため、その絵が落ちて割れた額縁のガラスが足の裏を傷つけ五針縫うケガをした。救急車を呼んだことで近所は一時大騒ぎになった。
「ねん挫の方はもうほら、このとおり何ともないんだけど、足の裏を切ったもんだから歩くのが不自由でねぇ」
「でもよかったよ、それぐらいで済んで!」
「ありがとう!ありがとう!」「あんときは準一朗が来てくれて助かったよ!」
「浩太には話してないの?」
「ん・・、大したことじゃなかったからなぁ」
「そんなことより、めしにしよ! ビール飲むだろ!」
「うん!」(つづく)