二日めのカレーライス9
「もしもし、じゅんちゃん!電話くれてたんだね、ごめんね」
「いや、俺の方こそすぐに電話できなくてゴメン」
「でもあんな時間に柚子が電話してくるなんて珍しいね、うしたの?」
その時の“珍しい”というワードにお昼のトン一郎でのやりとりが思い出された。
あまりにもケータイに出ないため会社の連中からはよく小言を言われるが、よくよく考えてみると柚子もケータイを触っているところをほとんど見たことがない。性格も大きく影響するのだろうが決して機械音痴の世代ではない。山野辺なんかは四六時中ケータイ(スマホをケータイと呼ぶのは我々世代が最後くらいではないだろうか)を見ている。何をそんなに見ることがあるのだろうと考えてしまう。
トン一郎のはじめちゃんが珍しいと言っていたのも理解できるが柚子や私のようにケータイをあまり見ない人間にとってはそんなに珍しいことではないのだが・・・
「前にね、じゅんちゃんが書斎近くのとんかつ屋さんの話してたでしょ!」
「とんかつ屋さん?」
シンクロしている。珍しいという言葉から柚子も私もトン一郎を頭の中で描いている。
「トン一郎のことだね!」
「そう、トン一郎!」
「トン一郎がどうしたの?」
「今日行ってきたのよ、私」
一瞬にして理解するのは難しかった。
「柚子が行ってきたの? トン一郎に?」
「そうよ、ヘレカツ定食食べてきたわ!」
「ヘレカツ定食、美味かったろ!」・・・
「えっ、トン一郎でヘレカツ定食食べてきたの?柚子が?」
「だからさっきから言ってるじゃない、何をそんなに驚いているの?」
「俺も今日トン一郎でヘレカツ定食食べたんだけど、その時はじめちゃんが、あっ、トン一郎のマスターのことね、今日すごい美人のお客さんが来たって言ってて・・・」
「もしかしてその美人って・・ 柚子のことだったのか?」
柚子から電話があったのが十一時半頃だったが書き始めると自分でも怖いくらい集中するので電話の着信音も耳に入らないこともよくある。電話に気付いて出ていればとん一で柚子と飯を食っていたのだろうが・・・・
「集中してて電話に気付かなかった、ほんとゴメン」
「いいのよ、たまたま時間が空いちゃったのでじゅんちゃんが言ってたとんかつ屋さん行ってみようと思っただけだから」
「美味しかったよ、ヘレカツ定食!」
「おやすみなさい」
「おやすみ・・・」 (つづく)
〖 ここまでの登場人物おさらい 〗
私 高野隼一朗(47才)
作家(ペンネーム:鷹野リョースケ)
はじめちゃん 三越 一 (39才)
トンカツ屋「トン一郎」店主
たっちゃん 三木達彦(45才)
株式会社高野コンストラクション 管理本部総務部総務課秘書室長
柚子 本田柚子(41才)
山野辺 山野辺浩太(47才)