見城瑠理子、子役からスタートしたその経歴はまさに100年に一人の逸材と言われるほどの若手女優ナンバーワンに成長した一人である。
結璃とは、結璃が見城瑠理子の所属する事務所「雅プロモーション」に入った12年前からの言わば同僚という関係であるが、結璃が入った頃には見城瑠理子はすでに天才子役としてその名は知れ渡っていた。
結璃は歳こそ上ではあるが事務所内では見城瑠理子が大先輩という位置付けであった。
エキストラとして入った結璃は女優としてのキャリアも、芸能界での実績も、勿論演技などエキストラとして主役俳優の後ろを歩く程度のことしかやったことはなく、演技の勉強すら学ぶ機会もなかったことから、見城瑠理子とはしばらく話をすることもできなかった。
そんな時、見城瑠理子が出演するテレビドラマのエキストラの仕事が舞い込んできた。
結璃は快くはは感じなかったものの、失敗だけはしないよう何とか無難に乗り切ろうと撮影現場に入ったのだが、見城瑠理子の姉役であった女優がスキャンダルで急遽降板することになり現場が大騒ぎになっていたところ、見城瑠理子が監督に声をかけた。
「あの人!使ってもらえませんか?」
見城瑠理子は結璃を指さした。
エキストラとはいえ今回は特別な思いで仕事にに入った結璃は、自分なりの“役作り”を撮影エリアから離れた待機エリアで黙々と練習していた。
監督はじめ現場スタッフの誰もが結璃のことを知らなかった。
結璃はふと顔を上げると、結璃以外の現場の全員が結璃の方を見ていることに気付いた。
「・・・・ 」
結璃は自分の後方に視線が集まっているのではないかと思い振り返った。
しかし、何もあるはずもなかった。
結璃の後ろは撮影スタジオの壁であった。
これはいよいよ自分に視線が集まっているのだと、何かしてはいけないことをしているのではないかと考えたが、思い当たる節はなかった。
あらためてもう一度見直したが、やはり全員が結璃を見ていた。
「あ、ああ あのう・・・・」
「私、何かやらかしてますでしょうか?」
監督は見城瑠理子に結璃が誰なのか尋ねた。
見城瑠理子が答えた。
「私もよくは知らないんですけど、同じ事務所の女優さんらしいですよ!」
監督が結璃の方へやって来た。
「君、名前は?」
「美園です! 美園結璃と申します!」
「女優さん?」
「ま、一応は女優というくくりではありますが・・・・」
「今日はエキス 」
「メイクさん、準備して!」
結璃は何が起こっているのかも理解できず、メイクさんの言うがまま控室に連れていかれた。 つづく